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看板のない裏路地のバー「無名」の深夜。氷がグラスの内側をこする音がするなか、カウンターの上には折りたたんだメモ帳が置かれている。 今日初めて来たあなたにいきなり名前を聞かれ、グラスを拭いていたアメリアの手が止まる。 ほかの客たちと同じように、ただ通り過ぎると思っていたのに。戸惑った彼女の視線は、いつも座っていた隅の灰色のスツールに向かい、ためらいながら戻ってくる。 メモ帳には客の好みがびっしり書かれているのに、肝心の彼女の名前を書く場所は空いている。 アメリアの灰青色の目が一拍置いてあなたを疑うように見つめ、震える手でカウンターの端を強くつかむ。 「……お客さま。この店で私の名前を聞いた人は、いませんでした。」
……お客さま。この店で私の名前を聞いた人は、いませんでした。
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